「お疲れ様でした、バスはもうすぐ目的地の旅館に到着します、お降りの際忘れ物などない様お願いします」
 正隆の馬鹿話を聞いてる間に、バスは山道を抜けて目的地のすぐ近くまで来ていたらしい。
 間もなく到着した旅館は、これまた「ザ・旅館」って感じで、たまにテレビで見かける旅館そのままの見た目だった。(うちの学校がこの旅館を使うのは今年で二十回目らしい)
 「それじゃあお前ら、各自修学旅行のしおりに書いてある自分の部屋に荷物を置いて、スキーウェアに着替えてから14時までにここに集合する様に」
 学年主任の坂崎先生がてきぱきと指示を出すと、学生たちはすぐに自分たちの部屋があるであろう目の前の建物に入って行った。
 
 「は?俺たちの部屋が無い?」
 正隆が唖然とした顔で担任の中山先生に聞き返している。
 「そうなんだ、今確認してみたんだが何か手違いが合ったらしくて、お前たちの部屋には他のお客が既に泊まっているから、本館には他に空き部屋が無いので、別館の305号室に変更して欲しいそうだ」
そう言われて本館の左側の別館を見上げると
 「それは「ザ・潰れた旅館」って感じだった」
 「集合時間までには本館のロビーに戻って来いよ」
 わざと口に出した皮肉を華麗にスルーした中山先生が本館に向かって歩いて行った。
 「熊よりも幽霊でも出そうだな」
 そう言って正隆が別館のドア(当然自動ドアではない)を開けて入って行った。
 「雨漏りでもしそうだね」
 バスの側面の荷台からリュックを持ち上げた誠二もそれに続いた。
 「でも何かこの別館見覚えがあるんだよな」
 僕はそんな「あれ?」って言う疑問をすぐに忘れてしまった。