恐妻家と噂の上司には子どもが三人いて、しかも、下の二人は年子。

そんな上司は職場の中でも特に私の不妊治療に理解がなかった。

意地悪な上司とて仕事もプライベートも色々と大変なのは察しがつく。

会社では、下からの突き上げと上からの叩きの板ばさみ、報われない中間管理職。

家では、恐い女房の尻に敷かれて、くつろぐどころの話じゃない。

上司は、通院の為に遅刻や早退を願い出る私にいつもチクチク嫌味を言った。

ときには、話を聞こえないふり、あからさまな無視までも……。

それでも――

ストレスが治療の大敵とわかっていても、すぐには仕事を辞められなかった。

お金のため……さらにステップアップするとなると、多額の費用がかかるから。

“ステップアップ”

まるで上のほうへ、明るいほうへ向かっていくかのようなこの言葉。

だけど、不妊治療におけるステップアップはかなり微妙だ。