もうすぐ1時間目が始まる所為か、廊下にいる生徒達は次々に教室の中へと身を潜めていく。

その中でも不機嫌真っ最中のタクヤが目に入り――…


「タ…クヤ…?」


あたしの事をまったく気付いていないのか、通り過ぎようとするタクヤに恐る恐る声を掛けると、タクヤは足を止めてゆっくりあたしを見下ろした。


「あ、リオちゃん…」


そう言ってくるタクヤは、やっぱりあたしには気付いていなかったのか、あたしを見た途端、優しく笑みを漏らす。


「え、えっと…」


引き止めたものの何を言っていいのかも分かんないあたしは、言葉を詰まらせる。

タクヤは“ん?”と首を横に傾げて、あたしを見下ろし――…


「…えっと…、この前はゴメン」


そう言ったあたしにタクヤは余計に分からないのか少し眉を寄せた。


「え…ってか何が?」

「ほら、この前、無視して帰ったから」


タクヤは一旦、宙を仰ぎながら「あー…」と、声を漏らしてもう一度あたしに視線を落とした。


「なんかあった?」

「え?」


“何が?”ってか、あたしじゃなくタクヤは何があったの?…と思ったのもつかの間で、