玲奈は、顔からずり落ちたそれを、ちょうどのタイミングで手で掴む。
それは、水で濡らされたタオルだった。
疲れ、火照った顔に、その冷たさは心地よくて。
思わず、顔一面に広げた。
「いつまでボーッと突っ立っている?
さっさと進め、跳ねっ返り」
お前が歩かないと俺様が進めない、とのふてぶてしい声に、礼を言おうか迷っていた玲奈の口からは悪態が飛び出した。
それを聞いたルクトが、さめざめと泣く振りをしながら「女の子なのに……」と言った言葉にも噛み付く。
不思議と、気分がシャンとしたことに気付いたのはその時だった。
さっきまで息苦しかったはずなのに、少し緩和され、心なしかさっぱりとしている。
タオルのおかげかとも思ったが、一度逃したタイミングを掴むことは出来ず、礼を言い損なったことに多少後悔していた。
少しだけ歩むペースが戻り、言えなかった礼は歩く距離で返そう、と玲奈は思った。
しかし。
「……なんだか、あちぃな」
最初は、歩いたからかと思った。
上着を脱ぐか躊躇ったが、迷っている間にも益々暑くなる。
玲奈は思いきって上着を脱いだ。


