玲奈が理解していないのを悟り、言い直す。
「この気候や高度に対する耐性が違うのだと思います。
我々と、レイナ様では」
小さく付け足した言葉は、幸いイシュトたちには聞こえなかったようだ。
否、エマが気遣い、聞こえない程度の声を出したのだった。
「跳ねっ返りのくせに、ずいぶんと箱入り娘なんだな。
最も、世間知らずだから跳ねっ返りなのかもしれんが」
イシュトの台詞に、くす、とヴァンが笑った。
玲奈は二人を睨み付けるが、いかんせん力が弱い。
「……ちっ」
くしょー、と口の中に消えていく。
知らない世界に来て、いきなり『贄』と言われ。
目前で人の命を刈り取るのを目にして。
挙げ句、慣れない山登りまでさせられ。
知らない世界で、なんでこんなこと……
浮かんでは頭の中を駆け巡る不満が、玲奈の心に忍び寄ろうとした、その時。
イシュトはニヤリと口角を上げ、振り返っている玲奈の顔に向かって何かを投げつけた。
べちゃっ
と音を立て、ひんやりとしたものが頬にあたった。


