盗賊の頭に向かって、イシュトが降伏を要求する。
「今すぐここから立ち去れ。
そうすれば命まではとらない」
そう言ったイシュトに、ルクトは苦笑いした。
それは、今ついさっき、人の命を刈り取ったばかりだとは思えない表情だった。
「甘いなぁ。
ヴァンさまは、ちゃんとイシュトくんに教えてあげるべきっしょ」
軽い口調でそう言ったルクトの言葉に、イシュトは一瞬、ムッとした顔をした。
そんなイシュトの雰囲気も飲み込み、ルクトは言った。
「ご主人様の務めだよ」
どちらに向かっての台詞かはわからない。
イシュトに教えるのが、かりそめの主人であるヴァンの務めなのか、
知ることが、本来の主人であるイシュトの務めなのか。
ただ、そう言ったルクトの瞳は剣呑に光り、顔から笑いは消え失せていた。
一瞬にして真面目な顔になったルクトは、イシュトに言い含めるかのように、静かに言葉を続けた。
「ここで見逃したら、仲間を連れてくる。
こちらは女連れだから、直ぐに追い付かれる。
後々厄介になる前に、……殺す」


