ラビリンスの回廊



「……殺せない?何故…」


エマが尋ねたが、ヴァンはそれ以上何も言わなかった。


玲奈は、盗賊の血や屍に、ともすれば吐きそうになるのを必死にこらえ、少しでも視界に入れないようにするのが精一杯で。


目の前でルクトが殺戮を繰り返すのを、イシュトが肉の切る音を、盗賊たちの痛みに呻く断末魔を、感じたくなくて。


ヴァンとエマの『この世界では人を殺すのがこんなに身近に有り得る』会話を信じたくなくて。


ぎゅっと、口を、耳を、心を、感情を……閉じた。


イシュトは戦闘不能となった盗賊は捨て置き、じわじわと盗賊の頭に近づいていく。


ルクトは対峙する盗賊に確実に止めをさしながら、イシュトが放った輩も手にかけていく。


既に返り血でぐっしょりと濡れた服は、倍以上の重さを二人に与えていた。


玲奈が世界を拒絶している間に、頭以外の盗賊を全て斬り捨て終えた。


最後の盗賊が、ぐらん、と目玉が空を仰いだと同時に、ドウッと地面に崩れ落ちた。