紅玉の近くまで来たからか、エマがそっと玲奈に近付き、改めてフードを深くかぶらせた。


何度されても慣れない。玲奈は恥ずかし紛れに口を動かした。


「なんだか大したことなかったな」


玲奈の零した言葉に、ルクトが「ん?」と首だけ振り返る。


「魔峰だよ」


魔峰と恐れられているわりには、途中にルノの罠が仕掛けられていたくらいで、特に恐ろしいことはなかった気がする。


玲奈がそう言うと、ルクトは微かに笑い、エマはそっと後ろに下がった。


「気候が安定せず、作物が育ちにくく、ひとが生計を立てるには厳しい土地なんだよ。だから目印になるようなものが殆どなかったっしょ?

案内人がいないと迷いやすいんだよね」


「ふーん」


「まぁ良かったじゃない、大したことないってレイナちゃんが思ったなら。案内人が優秀だった証拠だし」


ニカッと笑ったルクトに、イシュトが呆れたように溜め息を吐いた。


「自画自賛か」


「誰も褒めてくれないなら、自分で褒めるしかないっしょ?」