「王国から離れるわけにもいかない。壊すのを誰かに託すわけにもいかない。どうやって壊せるかもわからない……それで暁の乙女の出番とお考えに?

いささか浅慮と思いますけどねぇ」


ひとり頷きながら、男は小さく嘯く。


男の言葉が切れたところで、王妃は音を立てずに立ち上がった。


「嫁ぐ前から暁の乙女を求めていたのですが……此度の件で漸く、暁の乙女のなり手が見つかったのです」


王妃は男に背を向け、静かに奥へと歩いていく。


ルノは目で追ったが、王妃は死角まで進んでしまったようで、姿が見えなくなった。


声と足音が聞こえるだけだ。


「なり手、とは」


男の問いかけに王妃は答えない。歩みが止まった。


「シェル王国に光の乙女が喚ばれるように、ファイ王国へ喚ばれる暁の乙女。王国が対峙するとき、乙女もまた対峙する――ならば。初めから光の乙女に対峙しているものが、暁色を纏っていたら?」


ルノの位置から王妃は見えないのに、酷薄な笑みを浮かべる王妃が、ルノにも見えるようだった。