王妃は無表情で、男の話を真剣に聞いている風ではなかった。
男は王妃から反応を引き出そうとしてか、徐々に声が高くなる。
男は王妃の顔色を窺いながら話していて、上向き加減でいる。話の内容が、ルノにまで届き始めた。
「このままでは王子が紅玉を手にしてしまいます。かといって王子だけにいつまでもかかずらってはおれません」
「王子など、捨ておけ」
王妃の言葉に、眉を寄せる。
「ですが王子を野放しにしていては、シェル王国に攻め入るという企みも頓挫してしまうのでは……それに、私が王位につくには王子は邪魔です。この国を下さるという約束、まさかお忘れではないですよね? 兄との約束を」
ルノは男が兄と名乗ったことにひどく驚きつつも、漸く合点がいった。
王妃が、常々王子を邪魔者扱いし、此度戦場へ駆り出そうとするのは、この男を王の座につかせたいからか。
兄といっても、この国ではあくまで王妃と臣下という位置におくつもりらしく、上辺だけは丁寧な口調を崩さない。


