じっと動かなければ、気付かれることはなさそうだ。
息を潜めるルノの視線の先で、王妃はゆったりと椅子に腰掛けた。
身を沈めるように、深く息を吐く。
それを見計らっていたかのように、ドアからコツコツと微かにノックする音がした。
聞き取れるかどうか、というくらいの、音というよりも空気のゆらぎといったほうがいいくらいのものだった。
まるで、人目をはばかるかのような。
使用人であればノックなどせずに入ってくるのが当然で、王であればもっとはっきりとした音で主張するだろう。
――まさか兵が直接報告へ来たわけではないでしょうに……
ルノは危惧しながら、静かに部屋を窺った。
王妃には見当がついていたようで、誰何もせずに入室許可の声をかける。
返事とほぼ同時にドアからするりと身を滑り込ませた者に、ルノは目を凝らした。
男は王妃の前まで進むと、方膝を折り、粘しこい声でボソボソと呟いた。
ルノのところからは、顔は見えない。
男は、卑怯ともいうべき頭数でオーウェンを討ち取った男であったのだが、ルノにはわからなかった。


