幸いなことに、見張りの兵士は少なかった。


それが、自分やオーウェンの元に向かった兵士がまだ戻っていないからだということに、ルノは気付いていなかった。


心中では、こんな手薄で良いのかという気持ちもあるが、今は侵入することが重要だ。矛盾する気持ちを抱えつつ、ルノは進んだ。


王宮内に入る前に気付かれてしまえば、命を遂行出来なかった責任から、捕らえられてしまうだろう。


そうなってしまえば、イシュトのための時間稼ぎも難しい。王の策を攪乱するためには、誰にも気付かれずに侵入することが大切だ。


見張りが少ないからといって、気を緩めてはいけない。


息を殺して心音を落ち着かせ、手足指の末端まで、過敏ともとれるほどに神経を行き渡らせる。


足音にも充分警戒し、地面を踏みしめて体重を移動させたときにも不審な音がしないよう、慎重に気を配った。


うまく体を隠せる場所を見つけながら、焦らず王宮までの距離を詰めていく。


一戦も交えることなく見張りをやり過ごした頃には、ルノの額には汗がびっしょりと浮かんでいた。