ルノは迷っていた。
オーウェンから逃げたのは突発的だったし、思わず体が動いたというだけで、何かの使命があったわけではない。
自分は何処へ行くべきか、何をするべきか。
イシュトを追いかけ、合流し、手助けをするべきか。
イシュトたちに気付かれぬような後方で、ブラウの追っ手を待ち伏せし、イシュトたちを守るか。
それとも――
足取りが、ゆっくりになる。
徐々に遅まった足が、完全に止まった。
「お任せ致します、イシュト様」
村を出たイシュトの背中を思い出しながら、言葉を零れ落とす。
きゅ、と足を止め、からだを反転させた。
「私は……王宮内部から、あなたのお手伝いを」
自分が王国に戻ったところで、王も王妃も止まるとは思えない。
虫けらのように命をとられるだけだ。
王宮内に隠れる場所はあっても、潜む場所がないことは理解している。
見つかればおそらく、死。
兵が死んだくらいで王が止まらないのは、オーウェンを鳥がくわえていることからして明らかだ。
いまの王の状況では、これっぽっちも悔恨してくれるとは思えない。王妃なんては更にだ。
犬死にになるだろう。