イシュトの苦々しい声に、玲奈はハッとヴァンを見る。


「まさか、足止めのため……?」


ヴァンは何も言わなかった。

表情も変えず、微動だにしない。


『気付いていて、あの仕打ち』と言ったルクトの言葉の意味が、今ならわかる。


わかったところで、何も出来ない自分が情けない。


我が身を差し出したとて、今度は贄を失ったエマやルクトに迷惑がかかる。


唯一出来ることがあるとするなら、精一杯、彼女の意を汲むこと。


望む望まないに関わらず、彼女が時間を作ってくれたことは確か。

その時間を、大切にしなければ。


「……行こう」


玲奈は来た道に背を向け、絞り出すように言った。