ラビリンスの回廊



呼び名が『跳ねっ返り』で定着してしまったことに、改めて腹立たしい気持ちになる玲奈。


だからといって訂正して名前で呼ばれたら、それはそれでゾッとすると思い直し、口をつぐむ。


するとそのおかげで、ルクトがヴァンへ小さく囁いている会話の内容が、途切れ途切れに玲奈の耳へ入った。


「うちのお嬢様は、世間知らずなくせに、ヘンなところで勘が冴えるんだから、ルノちゃんの事言っちゃダメでしょ」


「私も最初は、レイナさんは知らなくていい事だと思いました。ですが今後また追っ手が来たとき、いづれ耳に入る事でしょう。それなら私たちから話したほうが、混乱は少ないかと思いまして」


「そう……かもしれないけどねー」


そこでチラッと玲奈を見たルクトは、自分等のほうを訝しげに見ている当人と図らずも目が合う。


途切れ途切れとはいえ、会話を聞かれてしまった事まではわからなかったのか、内容を完全に隠蔽する笑顔を玲奈に返した。