──────────
一方。
詰まった大きな音が、勢いよく広間にはぜた。
音の出所は王座の手元。
木製の手すり部分に、拳が叩きつけられていた。
常時ふんぞり返って座る王も、今だけは苛立った勢いで上体を手前に傾けている。
王の隣には、裾の長いドレスをたっぷりと広げて王妃が座り、興味なさそうに、音がした一瞬だけ王へ視線を向けた。
二人の目の前には、片膝を立ててこうべを垂れる男がひとり。
男はルノに気付かれないよう、彼女たちの動向に目を光らせていた者だった。
王へ報告する役目を担い、今その役目を果たしたところだ。
「ええい、どいつもこいつも、役立たずが!」
怒りのあまり、ブルブルと震える王の唇は、色が変わっている。
真っ赤になった顔のなか、唇だけが紫色をしていた。
「あの女め……のこのこと帰ってきたら、百ほど鞭でもくれてやれ!
いや百ではあきたらん。千だ、千!」
「はたして帰って来るかしら」
唾を飛ばしながら激しく憤る王に、油を注ぐようにして王妃は呟く。
声は大きなものではなかったが、この広間で声を発しているのが彼らだけであったことから、なんなく王の耳に届いた。


