ラビリンスの回廊



誰もがルノの言葉を待っていた。

重くなりかけていた静けさを払うように、イシュトがルノに話しかける。


「わざわざこんなとこに用があるとも思えないしな」

こんなとこ、と言ったところで軽く小屋に向けて顎をつきだす。


「まあ、無理に教えろとは言わないが。
ひとりなのか?」

そのイシュトの言葉に、反射的にルノが頷く。


微かな動きだが弾くような素早さだったそれに、彼女がどれだけ心細かったのかが見えた気がした。


その仕草で呪縛が解けたかのように、ルノはそっと口を開いた。


「病気の父のために『紅玉』を目指しております」


普通ならば『紅玉』を目指すなど軽々しく口にはしないものだが、相手が王族ということもありここは正直に言った方がいいと思ったのかもしれない。


「気候の変化が激しかったので、この小屋で着替えを」


そしてその最中に一行が通りかかったということらしい。


「騒々しかったですよね。邪魔をしてしまって申し訳ありません」


ヴァンがそつなく言った言葉に、ルノは慌てて首がもげるのではないかというくらい激しく、左右に振った。