丘を下ると、田畑に囲まれた民家がポツポツと現れ始めた。
雨が降っているからか、表に出ているものは誰もいない。
歩いていくうちに少しずつ家も増え、一本道からだんだんいりくんだ道に変わっていく。
玲奈はエマとの間の距離を縮めていったが、曲がるときには必ず歩調を落とし、後ろの玲奈を気にしながら歩くエマに、そっと心の中で感謝する。
「こちらです」
エマについて歩くことに必死で、辺りのことが見えていなかった玲奈は、その声にハッと我に返った。
いつの間にか雨は止んでいて、薄暗かった空は今はとっぷりと日が暮れている。
エマが指し示す先に目をやると、洋風という言葉がよく似合う、レンガ造りの城が鎮座していた。
城の前には跳ね橋が降りており、アーチ型の大きな扉は開かれ、中の庭が見えた。
庭には芝生が敷き詰められ、中央の噴水がぼんやりとした明かりを纏い、水をキラキラと舞わせている。
玲奈がエマに続いて跳ね橋を渡ると、門の両脇に立っている者に誰何された。
エマは彼らに事情を説明していたが、玲奈は、うち一人が胡散臭そうに自分を見ていることに苛つき、エマの話を全く聞いていなかった。


