ラビリンスの回廊



「……さんきゅ」


玲奈は小さく礼を言ったが、雨にかき消されたのか、はたまた聞こえたのをエマが素通りしたのかはわからないが、エマの表情は変わらず、返事もなかった。


ロボットかよ、と心の中で悪態をつきながら、玲奈は口をへの字に結んだ。


口に出して言わないのは、相手が年下らしいということと、一般人らしいからだ。


自分より弱っちそうなヤツに食ってかかるなんて無様すぎる。


わかっていても、顔が不機嫌になるのは止められなかった。


だが、エマは考え事をしていたらしく、そんな膨れっ面の玲奈に全く気付かない。


何を考えているかわからないが、エマは一点をじっと見つめており、そのことに玲奈は居心地の悪さを感じた。


なぜなら、エマが真剣に見つめていたものは、玲奈の服だったからだ。


初対面で髪に視線が行く者はたくさんいたが、なんのヘンテツもない学校指定の制服を見つめるなんて、生活指導の教師と風紀委員くらいだ。


東高の制服がそんなに珍しいのだろうか?


穴が開きそうどころか、裸が見えているんじゃないかって玲奈が心配し出した頃、やっとエマが口を開いた。