そう言われてやっと、聞き慣れない国の名前を出されていたことに気付く。
ただ、地理や歴史に限らず、勉強や世間一般の時事が苦手な玲奈は、それが果たして地球に存在するのかどうかもよくわからない。
だが、不得意分野を隠すために虚勢をはれるほどの虚栄心はなく、心持ち小さな声でエマに尋ねた。
「なんだよ、そのシェル城って……つーかここ、日本じゃねーの?」
「ニホン、ですか?」
怪訝な顔をして首を傾げたエマに、やっと人間らしい表情を見たと玲奈は思った。
だが、その次の瞬間、玲奈は自らの耳を疑った。
「ニホン、という地名は聞いたことがありません。
それはライエ大陸ですか?」
「ライエ大陸……?」
今度こそハッキリとわかった。
そんな大陸は、地球に存在しない。
「なんだよそれ……」
口をついた言葉に、エマは反応を示すことはなく、その代わりにスッと近付く。
警戒から拳を固めた玲奈に、エマは変わらず表情のない顔で言った。
「とにかく、詳しいお話は城で。
このままでは本当に風邪をひいてしまいます」
そう言って、ズイと傘を差し出され、玲奈は仕方なしにそれを受け取った。
受け取るまで何度でも差し出して来そうな気配だったからだが、なんとなくそれがくすぐったくも感じていた。


