「おはようございます、お嬢様」
藤臣さんの優しいバリトンボイスで目が覚めた。
目を開ければ端正な顔立ちに柔和な笑みを浮かべた藤臣さんが立っている。
藤臣さんが用意してくれたアーリーモーニングを済ませ、着替え終わると藤臣さんがまた現れた。
今日の予定は何かなぁ?
そんなことを考えていると、藤臣さんが私の考えを先回りして説明してくれた。

「来月より淑乃様には学校へ通っていただきます」
は?学校!?
そうだ、受験して高校に受かったんだった!
…ん?でも私が受かった高校ってここから随分と遠いんだけど?
頭の上に沢山の?マークを浮かべた私に、藤臣さんが突拍子もないことを言った。
「淑乃様には松本家のご令嬢に相応しい教育を受けていただく為に、それなりの学校へ通っていただきます。既に旦那様が入学手続きを済まされておりますので、ご安心ください」
いやいや!
ちょっと待ってください。
松本家の令嬢に相応しい教育?
それなりの学校?
入学手続き済み?
ダメだ…私のキャパを軽く超えちゃった。

茫然自失の私に、藤臣さんは優しく微笑んで
「何のご心配もございません。わたくしも毎日お供いたします。流石にお教室までご一緒とはまいりませんが、執事室におりますのでお気軽にお呼びください」
と言ってくれたけど…
毎日お供?
執事室?
私の頭は益々混乱してしまった。

「何事も慣れでございますよ、お嬢様」
藤臣さんは楽しそうにそう言って、またいたずらっ子みたいに笑っている。
…もしかして藤臣さんってドS?

そうこうしている内に、とうとう始業式当日を迎えてしまった。
アーリーモーニングを済ませ、真新しい制服に身を包む。
姿見で全身をチェックしてみる。
とっても可愛い制服だけど、何だか着られている感が…
お嬢様学校に通っていれば、その内に似合うようになるかなぁ?
そんなことを考えていたら、ドアをノックする音と藤臣さんの声が。
部屋に入り私の姿を見るなり、藤臣さんはニコニコしながら
「よくお似合いでございますね、お嬢様。とてもお可愛いらしくていらっしゃいます」
なんて言うから、私は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
学校へ向かう車の中でも、延々と藤臣さんの褒め殺しは続いて、学校に着いた頃には私は満身創痍だった。