また言い争う2人に
「喧嘩する程仲が良いって言葉があるじゃないですか!」
と言い返したら、鷹護さんと河野さんはチラッと視線を交わして肩を竦めると笑い始めた。
「お嬢には敵わないなぁ…」
「全くだ…」
2人の雰囲気が元通りになって行くのが私にも分かった。
2人が不安定だった原因ってまさか…
「もしかして2人とも…仲直り出来なくて落ち込んでいたんですか?」
私の言葉に鷹護さんは言葉を詰まらせ、河野さんは慌てて首を振る。
私なんか取り入る隙もないくらい仲が良いのに…この2人はある意味、完全な両想いだと思った。

教室に向かいながら、河野さんが話してくれた。
「やっぱり何だかんだ言っても、お嬢の言う通りお嬢を除けばオレの一番って弓弦かも…ウチさ、親父の代までは結構ちゃんとした名家だったんだよね。親父がダメにしちゃって、元々体が弱かった母さんは早くに死んで、親父は借金をオレに残して蒸発。まだ6つのガキだったオレは施設に行くしかなかったんだけど…弓弦が突然、紳士淑女クラスから執事メイドクラスに変わりたいとか言い出して大騒ぎ!鷹護家の跡継ぎだからね、ガキのクセにしっかりしてた。高等部卒業までは仕える側で学んで、人を惹き付ける主人になる勉強がしたいとか尤もらしいこと言ってさ。オジサン説得してとっとと編入しちゃった訳。上位なら全額奨学金で賄えるからって、オレの担当の福祉課の人を言いくるめてオレの手続きまでして…そんなの完全にオレの為だと思うでしょ?弓弦のヤなトコはさぁ…それからずっとトップでいることなんだよね!オレに譲らないのかよって思わない?」
そう言って人懐こい笑顔を見せる河野さんに
「そんなお話をして、私が鷹護さんに惹かれたらって思わないんですか?」
と訊いたら
「言わない方がダサいでしょ?」
と答えた笑顔が眩しくて
「河野さんの良いところだと思います」
と言えば
「本当はそう言ってもらいたくて」
と悪戯を企む子供みたいに笑う河野さんは、本当に鷹護さんが大好きなんだと思った。
鷹護さんにそう話すと
「河野の言うことはお耳に入れないようにと申し上げた筈です」
と言いながらも目が少し優しくなって、やっぱり2人は両想いで私なんか取り入る隙もないと思った。