週明けの月曜日。今日は鷹護さんの日。
隙のない仕草、よく通る声で淀みなく話す様子はいつも通り。
でもやっぱり何かが違う…

恒例になったお昼休みの中庭。
私は思い切って鷹護さんに訊いてみた。
「あの…何があったんですか?」
勇気を振り絞った割にはこんな言葉しか出ないなんてと思ったけど、鷹護さんなら言葉以外で解ってくれる。
でも返って来た言葉は
「特に何もございません」
の一言で目も合わない。
「だって…鷹護さん、おかしいですよ?いつもと違うし…私に出来ることがあれば…」
必死で言葉を紡ぐ私に、鷹護さんが吐き捨てた。
「お前に俺の何が解る?お前に出来ること?俺に構うな、それだけだ」
睨むような視線とぶつかる。
そうだった…鷹護さんは『松本家のお嬢様』と言う許婚を疎ましく思っているんだった。
「ごめ…なさ…私、鷹護さんに…嫌われ…なのに、勝手に指名とか…断られると思って…なんて言い訳ですよ…ね…」
言葉が詰まって、語尾は掠れて殆ど聞き取れないくらい。
今直ぐ消えてしまいたい…
そんな私の両肩をしっかり掴んで、鷹護さんが困惑顔で覗き込む。
「済まない、今のは俺の八つ当たりだ。お前は悪くない。謝る必要はない、言い訳も要らない」
何で急にそんな優しくするの?
私、また忘れたり勘違いしちゃいますよ?
「何故泣く?」
鷹護さんの言葉に漸く私は溢れて止まらない涙に気付いた。
「違…泣く資格ないから…泣いてませ…」
慌てて擦る私の手が鷹護さんに掴まれる。
拭うように鷹護さんの唇が私の瞼に触れる。
私をギュッと抱き締め、耳元に囁くように話す鷹護さん。
「お前にペースを乱されて苛々した。煩わしく思った」
胸がズキッと痛んだ。
「でも違った…他の男にお前が好きだと言われて頭に血が上った。他の男がお前の傍にいる姿に殺意を抱いた。俺はこんなにも嫉妬深い男だったのかと思い知らされた」
…嫉妬?
驚いて顔を上げると、鷹護さんの真っ直ぐな強い眼差しとぶつかった。
「俺はお前が好きだ」
唇に冷たい感触を覚えたと気付いた時には、既に鷹護さんに二度目のキスをされていた。
鷹護さんの冷たい唇が私の唇を覆い、優しく食むように啄む。
息をすることも忘れた私が、ショックで倒れるまであと少し。