【side:宝井】

『もう一遍言ってみろ!』
河野さんが鷹護さんの胸倉を掴んで怒鳴る。
珍しいこともあるもんだ。
いつもは鷹護さんと仲が良く、鷹護さんに叱られてもヘラヘラしている河野さんの下剋上?
まぁ興味ないけどね。
『女の取り合いらしいよ?』
ニヤニヤしながら若林が俺に耳打ちする。
男にされるとキモいけど、その内容に少しだけ興味が湧く。
『へぇ…あの2人って女の趣味、正反対じゃなかった?』
興味を示した俺に気を良くした若林が
『それがお相手はあのお嬢様らしいぜ?河野さんが鷹護さんにお前にだけは負けないって略奪愛宣言したんだって。鷹護さんが余裕で、勝手にしろ、俺には関係ないとか煽って掴み合いに発展してさぁ…』
とペラペラとよく喋ってくれた。もう別の奴に話し掛けてるし。
この分なら今日中には学園全体に知れ渡りそうだな。
若林の言ったお嬢様が、松本家のお嬢様を差していることは直ぐに判った。
鷹護さんがデモンストレーションのアフターフォローとは言え、進んでお仕えするのを初めて見た。
しかも、あんな条件を呑んで試用期間限定でもお仕えするなんて俺も驚いた。
気に入ってはいると思ったけど、まさか知己の河野さんと啀み合いまでするとはね…
面白そうだと思って、俺も試用期間だけお仕えすることを了承して良かった。
偶々、今日は俺がお仕えする日だから、お嬢様の様子も探ってみるかな?
あのお嬢様、弄り甲斐がありそうだし。

昼休みの中庭。
お嬢様は予想以上に鈍感で、意外にも鷹護さんがこのお嬢様にかなり入れ込んでることが判った。
キレた鷹護さんも初めて見たけど…ちょっと煽りすぎたな…これくらいでやめておくか。
そして俺は…少し味見の積もりで手を出したお嬢様にどっぷりとハマった。
そんな目で見るなよ…本気で手に入れたくなるだろ?
もどかしいくらい鈍感で、でもアッチは理性なんて直ぐに吹っ飛ばすくらい敏感なお嬢様。
少し弄っただけであんなに怯えてたクセに、紅茶の一杯であんな満面の笑みを見せるなんて馬鹿な女。
でも、その馬鹿な女を可愛いと思う俺はもっと馬鹿だ。
他の奴らが手を出す前に食って、あの鈍感なお嬢様に俺のモノだって教え込んでやらないとな。
焦燥感に苛つきながら、俺は確実に仕留める為の手立てを思案する。