昨日は気紛れ王子様に振り回されたり、鷹護さんのことが心配で悩んだりしてよく眠れなかった。
眠い目を擦り、今日は土曜日だから半日頑張ろう!と気合いを入れてベッドから起き上がる。
藤臣さんの淹れてくれた美味しい紅茶といつもの優しい笑顔に安心して、気持ちも少し落ち着いた。
「お嬢様、おはようございます」
目の前で様になった挨拶をするのは秋津君。
秋津君なら前から知っているから安心だと思ったけど…お世話をしてもらうとなると勝手が違って落ち着かない…
藤臣さんは秋津君と挨拶を済ませると
「お嬢様、それでは後ほどお迎えに参ります」
と言うと、私やクラスの人に挨拶をして行ってしまった。
もう予鈴が鳴る時間だし、他の執事さんもいなくなる時間だけど、落ち着かないんだもん!
そんな私に気付いたのか、秋津君は
「お荷物をお預かりいたします」
と私のバッグを取り上げながら、ボソッと
「キョドんな、このバカ」
と言うと、私を席まで連れて行って座らせてくれた。
秋津君のリード(と小声のお小言)のお陰で、私は無事に半日を過ごすことが出来た。
秋津君に限らず、人にお世話をしてもらうこと自体にまだ慣れてないんだよね、私って…
授業中や休み時間の秋津君はお小言の多さと裏腹に、すごく面倒見が良くてママみたいだった。
秋津君にそっとそう告げると『はぁ?言ってる意味解んねぇし…このバカ』って言われたけど。
でも、眉間に皺を寄せる秋津君が怒っていないのは分かった。
『仕方ねぇな、バカだし』って秋津君がぶつくさ言いながら、手際良く紅茶を淹れてくれたから。
私の頬が弛むのを見た秋津君が『顔がだらしねぇよ、このバカ』って言ったから。
秋津君のバカって言葉はしょうがないなぁと言っているみたいで、私は言われる度に安心する。
そう、秋津君は昔から私の面倒をよく見てくれていたじゃない。
何だかんだ言いながら、私の苦手教科を根気良く分かりやすく、私が理解するまで何度でも…
一人っ子だから分からないけど、お兄ちゃんがいたら秋津君みたいな感じなのかなぁ?
口は悪いけどすごく優しくて面倒見が良くて格好良くて…
は?今、私は秋津君を何て思った!?
…格好良い……
そう、秋津君は少し会わない間に格好良くなっていた。
そりゃ、廊下にまで女子が集まる訳だよね…納得。