「お嬢様、おはようございます」
異国の少年のような綺麗な顔立ちの宝井さんが、恭しくお辞儀をして迎えてくれた試用期間3日目。
「お嬢様をよろしくお願いします、宝井君。河野君は昨日1日保たなかったからね」
あまり笑えない冗談を交えながら藤臣さんが宝井さんにバトンタッチ。
「お任せください、藤臣さん。わたくしが完璧にお仕えいたします」
整いすぎて人形のように造られた笑顔で宝井さんが応える。
何となく表裏がありそうで、執事候補生4人の中で唯一気が抜けない宝井さん。
でも女子からの人気は高く、クラスだけではなく他のクラスの女子が廊下に群がる始末。
宝井さんは彼女たちに
「本日はお嬢様にお仕えすることに集中させていただけますか?」
と微笑み掛ける。
「素敵~、私も宝井さんに仕えていただきたいわぁ…」
なんて口々に溜め息を漏らしつつ惜しみながら去って行くけど。
それって裏を返せば、今日以外なら来る者拒まずってことじゃないの?
と思った私は捻くれ者でしょうか!?
『ハッ、笑顔一つで野次馬が一掃出来るとはね』
でもほら、また黒いことを呟いているし。

お昼休み、またもお散歩と称して中庭を歩く私とお付きの宝井さん。
滅多に人がいないから、執事候補生と一対一でお話をするのに丁度良いと気付いたのは昨日。
火曜日と木曜日のお昼休みにお散歩して、出会ったのは鷹護さんだけだから。
でも火曜日も木曜日も鷹護さんに会っているから今日も…まさか…ね?
「お嬢様を巡って執事候補生NO.1とNO.2が争いになっていることはもうご存知ですか?本当にお嬢様の可愛らしさは罪でございますね」
は?てゆうか宝井さん、笑顔で黒い冗談を言わないでください……
「そのご様子ですとご存知ではないようでございますね…噂をすればNO.1がいらっしゃいましたよ。お待ち合わせですか?」
宝井さんがブラックモード全開なんですけど、どうすれば?
そう言えば誰が来たって?
振り向くと目の前には鷹護さん!
…鷹護さん専用の通り道とか?
えっと…無難な挨拶をしなきゃ。
「鷹護さん、ごきげんよう」
笑顔で軽く会釈と二階堂さんを真似てみました。似ていないけど。
姿勢を正した鷹護さんが
「お嬢様、昨日は河野共々失礼いたしました」
と言ってスッと一礼した。