恋人は専属執事様Ⅰ

大人しく食べることに専念すると
「お嬢様、どうかなさいましたか？」
と藤臣さんが心配そうに私の顔を覗き込んで来た。
「あ…全然！美味しくてつい夢中になってしまって…」
私が慌てて言い訳をすると、藤臣さんは少し寂しそうな表情で
「お嬢様にお仕えして間もないですが、執事たる者主人の如何なることにも配慮することが務めでございます。明らかにお嬢様のお心が先ほどとは異なることに、わたくしが気付かないとお思いなのですか？わたくしでよろしければお話していただけないでしょうか？」
と言って、心配そうに私の目を見ている。
うーん、本当に私の我が儘なのにどうしよう？
私が迷っていると、藤臣さんは背筋をスッと伸ばして
「差し出がましいことを申し上げて失礼いたしました」
と言って、深く頭を下げた。
うわっ！どうしよう？
藤臣さんは全然悪くないのに…
意を決して私は我が儘を言うことにした。

「あの…ご飯は１人で食べるよりも、誰かと食べる方がもっと美味しいなぁ…って」
上目遣いでチラチラと藤臣さんを見る。
藤臣さんは顔を綻ばせている。
あれ？困らせるかと思ったんだけど…
「お嬢様は本当に困ったお方でございますね」
そう言った藤臣さんは全然困ったように見えなくて、私は戸惑ってしまった。
「本日は旦那様がお出掛けになっていらっしゃるので特別ですよ？」
藤臣さんはいたずらっ子みたいに笑ってウインクすると、私の向かいに座ってお皿にお料理を取り分けて食べ始めた。
私たちは他愛のないお喋りをしながら、お昼ご飯を済ませた。

ご飯を食べ終わると、藤臣さんはまたいつも通りに手早く片付け、私を部屋に連れて行ってくれた。
「午後はテーブルマナーを身に付けていただきます。こちらのドレスにお召し替えください。お召し替えがお済みになられましたら、講師の方がお待ちですので、食堂へご案内いたします」
そう言って藤臣さんは部屋を出て行き、入れ替わりに２人のメイドさんが入って来た。

「お嬢様、失礼いたします」
うっ…嫌な予感。
嫌な予感は見事に的中し、私は着せ替え人形のようにメイドさんたちに着替えさせられた。

着替えが済むとメイドさんたちは一礼して部屋を出て行き、入れ替わりに藤臣さんが入って来た。