二階堂さんからの提案で、試用期間を設けて4人の執事候補生に日替わりで仕えてもらうことになった。
試用期間は夏休みに入るまでの約4ヶ月間。
4人の執事候補生は、鷹護さん・河野さん・宝井さん・秋津君。
私って何様?と思ったのに…みんなこんな条件を受け入れる訳ないって思ったのに…
執事候補生4人は勿論、先生や生徒までが、こんな前代未聞の条件に納得してしまって驚いた。
二階堂さんは『ほら、ご覧なさい』と得意気だったけど、その笑みが藤臣さんに向けられていたのは何故?
そして、藤臣さんも反対意見こそなかったけど、険しい顔なのは何故?

「お嬢様、お茶の御代わりは如何いたしますか?」
私の斜め後ろに控えていた鷹護さんが、よく通る声でそう訊いてくれた。
「あ、お願いします」
試用期間初日は鷹護さん。
同じ学園の生徒でしかも2年先輩にお世話をしてもらうなんて、慣れられそうにないなぁ…
「お待たせいたしました」
目の前に淹れたばかりの紅茶が置かれると同時に…
「今の場合は『いただく』とお応えいただきます」
私にしか聞こえない小声で、鷹護さんからダメ出しをもらう。
「あ…ありがとう?」
鷹護さんの顔色を窺いながら、つい語尾が疑問系になってしまう。
チラッと一瞬だけ軽く睨まれたけど、それは語尾が上がったことへの注意だったみたい…
これ以上呆れられたら立つ瀬がないと言うか、鷹護さんからお説教されそうだから気を付けなきゃ。
鷹護さんって学級委員長っぽいよね?と二階堂さんに話したら、実は執事候補生総代だとか。
執事メイドクラスの生徒は全員が寮生活で、執事候補生寮の寮長も兼任してるらしい…すごいなぁ。
だからデモンストレーションの時に汚名返上って言ったり、翌朝に執事候補生の指導不足って謝ってくれたりしたのかな?
…大変そうだな。
私なんかのお世話をしている場合じゃないんじゃない?
そう思いながらチラッと鷹護さんを見上げたら
「お嬢様、失礼いたします」
と鷹護さんがスッと腰を折り私の耳に右手を添えると
『上目遣いはおやめくださいと申し上げました』
と怒気を孕んだ声で耳打ちした。
そうでした、そう言われました。鷹護さんの大きな手で目隠しされながら…
その後されたことまで思い出してしまい、私は顔が真っ赤になって俯いた。