「柔らかいな…」
私の髪を梳きながら、鷹護さんが呟いた。
何このシチュエーション?
すごい恥ずかしいんですけど…
真っ赤になって俯く私に、鷹護さんが漸く私の頭から手を退かした。
「済まない…お前が可愛い顔をするから魔が差した」
真顔で言う鷹護さんに
「そうそう、可愛いって…真顔でそんなお世辞を言っても駄目ですよ!」
と思わずノリツッコミをしてしまった。
鷹護さんが呆れた顔をする。
いきなりノリツッコミは遣りすぎですよね?
そう思ってたら、鷹護さんが
「本気でそう思っているのか?お前はかなり可愛いぞ。仮の許婚だからではなく、他の場所で見掛けたとしても可愛いと思うだろうな…」
と褒め殺し始めた。
「ちょっ…恥ずかしいからやめてください!そんなに煽てても何も出ませんよ?」
私が顔を真っ赤にして抗議すると、なぜか鷹護さんまで顔を赤くして
「解った、もう言わないからその表情は止めてくれ。俺まで変な気を起こしそうだ…」
と顔を背けながら言った。
どの表情がいけないの?
ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ…
ジーッと鷹護さんを見つめていたら、鷹護さんの大きな手が私の目を覆った。
「やんっ…何するんですかー!」
鷹護さんの手首を掴んで剥がそうとするけど、全力で頑張ってもビクともしない。
「そんな上目遣いをするな!それから、その甘ったるい声もよせ!」
鷹護さんにヘンな言い掛かりを付けられて、私も何とか言い返そうと頑張った。
「そんなことしてな…早く離してください!っやぁ…」
私が必死に暴れたから鷹護さんが観念して手を離してくれた…と思ったら
「変な声を出すな!」
と今度は鷹護さんの手が口を塞ぐ。
「次は唇で塞ぐからな?嫌なら変な声も甘ったるい声も出すな!」
鷹護さんが私に顔を寄せて言うけど…
逆効果です、鷹護さん…
顔が近いです…息がかかって意識しちゃいます!
真っ赤な顔に涙目の私に気付いた鷹護さんが、私をギュッと抱き締めた。
「その表情はよせと言った筈だ…あまり俺を煽るな。これだけでは済まなくなる…」
私は突然の出来事と鷹護さんの言葉に、頭が真っ白になって機能停止した。
結局、予鈴が鳴るまで鷹護さんはずっと私を抱き締めて離してくれなかった。