「それでお前は納得しているのか?」
口調の違いで直ぐに許婚のことを言っていると分かった。
「いいえ…昨日初めて会ったばかりだし、鷹護さんのことを何も知りませんから…それに正式なお話じゃないって聞きました」
私がそう応えると、鷹護さんは呆れた顔で
「俺が松本家の財力を欲して、正式に申し込んだらどうする?」
と訊いて来た。
…そんなこと、考えもしなかった。
「考えていませんでしたって顔だな…」
鷹護さんにズバリと言い当てられ、私はコクンと頷いた。
「鷹護さんはそういうことはしない人だと思って…」
正直な考えを言ったら、鷹護さんがハナで笑って
「さっき俺のことを何も知らないと言ったのに?」
と馬鹿馬鹿しそうに言った。
「そうですけど…昨日のデモンストレーションや今朝の鷹護さんは、自分の実力で周りの信頼を得る人だと思って…それに、私が松本家の人間なのが…本当はその…疎ましく思ってるんじゃないかなと…」
そう、昨日から何となく感じていた。
鷹護さんからの私に対する嫌悪感。
「参ったな…」
ポツリと鷹護さんが呟いた。
「鈍感だと思ったんだが…意外と鋭いな、お前は」
今、私のこと鈍感ってはっきり言った!
何この人?そんなに私が嫌なら放っておけばいいのに!
私の気持ちなどお構いなしに、鷹護さんは独り言のように話し続ける。
「仮にも許婚が同じ学園にいて、それが日本屈指の家柄だから狙っている奴が沢山いて…本人は人形のような美少女と評判で、周りの思惑に全く気付かず人を疑うことも知らない。誰彼構わず分け隔てなく接して、勘違いする奴は右肩上がりに増えるばかり。面倒くさい女だと思った」
人形のような美少女って噂はガセネタだけど、他は鷹護さんの言う通り。
分かっていたけど、はっきり言われると意外にショックが大きいな…
俯く私の頭を突然、鷹護さんがクシャクシャと撫でた。
「なっ…何をするんですか?」
私はぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えながら抗議した。
「最後まで俺の話を聞かずに落ち込むからだ」
初めて鷹護さんが笑顔を見せてくれた。
「今朝はやれば出来ると解ったし、さっきも観察眼が全くない訳じゃないと解った。かなり危なっかしいが…」
そっと鷹護さんの長い指が私の髪を梳いた。