恋人は専属執事様Ⅰ

何とか時間内に準備を終えた私は、朝ご飯を美味しくいただいた。
今は車の準備待ちをしているところ。
藤臣さんがお迎えに来てくれるのを待っているだけなんだけど。
ドアをノックする音と藤臣さんの声が聞こえた。
私はバッグを持つと勢い良くドアを開けた。
バフッ!
勢い余って藤臣さんに思い切りぶつかってしまった。
かなりの勢いだったけど、藤臣さんは全く動じないで私を受け止めてくれて、心配そうに私の顔を覗き込んで
「お怪我はございませんか?」
と言って、全身くまなくチェックしてくれた。
「お手数をおかけして済みません…」
さっきみたいに溜め息を吐かれる前に謝ったけど、藤臣さんは顔を綻ばせている。
「淑乃様はお気になさらないでください。お世話のし甲斐がございます」
嫌味…じゃないみたい。
藤臣さん、すごく嬉しそう。
パパを主人に選んだ人だからなぁ…
きっと傍迷惑なくらいが丁度良いのかも?
車の中で藤臣さんから学園で注意することを言われた。
先ずは昨日のデモンストレーションの影響で、今日から暫くは執事候補生が押し掛けて来るから、慎重に対応すること。
次にやっぱりと言うか、誰彼構わず隙を見せないこと。
愛想笑いの積もりの笑顔も、相手次第では別の意味の笑顔に受け取られるからって。
すっごく口を酸っぱくして言われた。
最後に、絶対に1人にならないこと。
昨日、教室に1人でいたのを見られたからかなぁ?
警備員さんがいるから不審者とか入れないと思うけど…
そう言ったら、生徒や先生の可能性だってあると、もっと危機感を持つようにたっぷり叱られた…
松本家のお嬢様だから、既成事実を作ってしまえばって考える人もいるからって。
こんな私でも、松本家の肩書きに利用価値があると思われるのかと思ったら、憂鬱な気分になった。
藤臣さんはそれだけじゃないって言ってくれたけど、主人を持ち上げるのも執事の務めだよね?
そんなことを思っていたら、藤臣さんに軽くデコピンされた。
驚いて藤臣さんの顔を見たら、笑顔で
「今は笑顔でいていただきたいのですが?」
と言われた。
デコピンとか笑わせる為にする?と思ったら、おかしくなって自然に笑っていた。
やっぱり藤臣さんは私をよく分かってくれていて、それがすごく嬉しい。