デモンストレーションが終わり放課後。
藤臣さんにお迎えに来てもらおうと、ケータイを取り出したら
「もうお帰りになられてしまわれるのでしょうか?愛らしいお嬢様」
と声を掛けられた。
この話し方は…
振り向くと案の定、河野さんが立っていた。
「立ち姿も可愛らしい…立てば芍薬座れば牡丹と申しますが、お嬢様はもっと可憐な花のようでございますね」
やっぱりクサい台詞だけど、河野さんが言うとそう思わないのは、この人懐こい笑顔のせい?
「早速ではございますが、明日よりお嬢様の身の回りのお世話をさせていただきたく、お許しをいただきに参りました」
ニコニコしながらスラスラと河野さんが話すのを聞いて、私はポカンとしてしまった。
二階堂さんの恐喝まがいが効いていないよ!
「どうかなさいましたか、お嬢様?」
ポカンとしてる私に、河野さんが訊いて来た。
無駄に顔が近いです…
その時、河野さんが一瞬だけ表情を崩し、直ぐにまた人懐こい笑顔に戻ると
「少々お時間をいただけますでしょうか?」
と言って、ケータイを取り出して
「失礼いたします」
と私に断ってから電話に出た。
「鷹護、急用でなければ後にしてくれないか?今、お嬢様に専属契約を交渉中なんだ」
えぇっ!?
もう専属契約の交渉段階だったの?
試用期間とかないの?
驚いていると開いていた教室のドアの向こうに、長身の鷹護さんが相変わらず隙のない姿で立っているのが見えた。
ドアに背を向けている河野さんは鷹護さんに気付いていないみたい。
スッと一礼して教室に入って来た鷹護さんが、いきなり河野さんの頭に拳骨を喰らわせた。
「っ痛!何だよ、鷹護…お嬢様と交渉中だって言っただろ?」
不満そうに頭を撫でる河野さんに、鷹護さんは睨みを効かせながら
「専属契約を交わしても長続きしない奴が何を言う!こんなことだろうと思って来て正解だったな…全く。早く教室に戻るぞ!」
と言って河野さんを廊下へ追い出してから、私の方に振り向くと
「お騒がせして申し訳ございません。それでは失礼いたします」
と言って丁寧にお辞儀をすると、廊下から教室を覗き込んでいる河野さんを引き摺るように歩いて行った。
鷹護さんって学級委員長みたい…
それじゃ河野さんはクラスの問題児?
クスクスと誰もいない教室で笑ってしまった。