「とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
私がそう言って頭を下げようとしたら、また鷹護さんに目力だけで止められた。
本当に怖いんですけど…
鷹護さんは手際良くティーセットを片付けると
「それではお嬢様、失礼いたします」
と一礼すると去って行った。
後ろ姿も隙がないなぁ…
「第二の氷雪の君候補が全員来ましたわね」
急に二階堂さんがピッタリとくっ付いて来て言うから、私は驚いて跳ね上がりそうになった。
さっきも言っていたけど『第二の氷雪の君候補』って?
『氷雪の君』は藤臣さんの在学中の通り名だったんだよね?
第二ってことは…藤臣さんみたいな優秀な執事候補生ってこと?
そう訊くと、二階堂さんはニッコリと笑って
「良い線ですけれど、少し違いますわね。優秀なだけでなく、専属契約を持ち掛けられても一切応じないこともそうですのよ?」
と言うと、真顔で少し考え込んでいる。
首を傾げて二階堂さんの言葉を待っていたら、そんな私に気付いた二階堂さんが
「あなたがそんなに可愛らしいから、わたくしが独占するのは難しいですわね」
と眉を八の字にして言った。
いえ、可愛くないから!
美少女の二階堂さんに言われても、全然説得力ないし。
「それにしても、まさかあの鷹護さんまでわざわざ来るなんて、わたくし驚きましたわ…」
本当に驚いている様子の二階堂さん。
あー…何か分かる気がするかも。
何となく簡単には人に気を許さないって感じの人だったもんね。
「どなたと専属契約を交わすか、もうお決めになりまして?」
悪戯な微笑みを浮かべながら、楽しそうに二階堂さんに訊かれた。
「そんな直ぐには決められないですよ~」
私は眉尻を下げながら応えた。
秋津君なら気心が知れているから良いけど…
宝井さんの紅茶も今まで飲んだことがない美味しさだったし、鷹護さんなら藤臣さんと同じ味の紅茶を淹れてくれる。
河野さんも紅茶は飲みそびれたけど、あのフラワーアレンジのセンスは私のツボだったし。
秋元さん以外の全員がレベルが高すぎて、持ち味も違うから悩ましいんだよね…
「第二の氷雪の君候補3人に、軽いですけれど腕は確かな河野さん、贅沢な悩みですわよね?」
私の考えを見透かしたように二階堂さんがニッコリと微笑んでいる。
本当に贅沢な悩みですよねぇ…