「こちらはHarrodsのウバハイランズでございます。スリランカの高地で産出された茶葉らしく、オレンジがかった赤い水色が美しいと言われております」
そう言って、鷹護さんが近くでポットからカップに紅茶を注いで見せてくれた。
『すいしょく』って何だろうと思ったけど、紅茶の色のことなのね。
綺麗な赤味を帯びた紅茶が、カップへと注がれてるのを眺めていたら
「こちらは先ほどお嬢様がお口になさいましたセイロンと全く同じものでございます。淹れ方と飲み方次第で、茶葉の特徴を活かすことも台無しにしてしまうこともございます。先ほどの秋元の失敗で、お嬢様がセイロンをお嫌いになられてしまうのは勿体無く存じます。わたくしに汚名返上の機会をいただけますでしょうか?」
鷹護さんの声って、本当にすごく心地良い…
淀みない話し方、穏やかな口調、その両方に元からの声の良さもあって、心地良いんだろうなぁ…
「お嬢様、どうなさいましたか?」
と鷹護さんが訊いて来た。
いけない、ウットリしている場合じゃなかった。
「はい、お願いします」
ペコッと頭を下げると、鷹護さんに
「お嬢様が使用人にそのようなことをなさってはいけません」
と諫められてしまった…
「でも…」
直ぐにお返事しなかった私が悪いから…と続けようとしたら、鷹護さんに強い目力で無言の圧力をかけられた。
…怖っ!
「お待たせいたしました」
目の前にミルクティーが置かれた。
汚名返上って言っていたけど、別に鷹護さんの失敗じゃないし、藤臣さんの淹れてくれるセイロンのミルクティーは飲めるのに…
そう思いながら、カップに口を付ける。
…!
藤臣さんが淹れてくれる紅茶と同じ味がする!
何で?すごい…
私が驚きを隠せずに無言で紅茶を飲み干すと、鷹護さんが
「どうやらお気に召していただけたようでございますね。いつも藤臣さんの淹れるお茶を召し上がっていらっしゃるお嬢様なので、大見得を切ったものの内心は緊張しておりました」
と言た鷹護さんが胸を撫で下ろす仕草をしたけど…
顔が飄々としているから直ぐに嘘だと思った。
この人は、敢えて私が飲み慣れている藤臣さんが淹れる紅茶の味に合わせたんだ…
すごい自信家だけど、それに見合うだけの技術を持ち合わせているから、嫌味は全く感じなかった。