恋人は専属執事様Ⅰ

その時にそっと耳打ちされた。
「もうクラスメイトじゃねぇんだから、ちゃんとお嬢様らしく振る舞え、バカ」
変わらない『バカ』って口癖に顔が綻んだけど、テーブルの下で秋津君に軽く椅子の足を蹴られ、私は神妙な顔つきで
「いただきます」
と言って、秋津君が淹れてくれた紅茶を飲んだ。
「…美味しい！」
渋みがあるけどほんのり甘くてサッパリした感じがして、香りも爽やか。
私はほんわかした気持ちで、美味しく紅茶を楽しみながら飲んだ。
最後の一滴まで飲み干し
「ご馳走さま」
とカップを置いて言うと、秋津君が
「お嬢様のお気に召されたようで何よりでございます」
と言ってカップを下げた。
久しぶりの再会だから、もう少し話したいけど…
ティーセットを片付ける秋津君をジッと見ながら、気付かないかなぁ？と思っていたら
「…お嬢様、わたくしの顔に何かついておりますか？」
と秋津君が言った。
あ、怒ってる…
シュンとした私に秋津君がスッと顔を寄せて
「んな顔すんな、バカ。まだ専属が決まってないんだろ？俺が世話してやるから安心しろ」
と他の人に聞こえないように小声で口早に言うと、直ぐに離れて
「それでは失礼いたします」
と一礼して行ってしまった。
そっか、秋津君が専属になってくれたら、毎日会えるから話せるよね。
秋津君に専属をお願いしようかなぁ…とぼんやり考えていたら
「松本さんは秋津さんをご存知ですの？」
と二階堂さんに訊かれた。
「あ、えぇ…以前通ってた塾が一緒で…」
私がトロトロ説明すると、二階堂さんはズイッと私に顔を寄せ
「その割には随分と仲がよろしく見えましてよ？秋津さんは１年で早くも第二の氷雪の君候補入りした優秀な執事候補生ですの。早く専属契約を交わした方がよろしくてよ？」
と言うと、意味深な笑顔を見せた。
何だかお見合い斡旋が趣味の親戚のオバサンみたいだよ、二階堂さん…
怒られるから絶対に言わないけど。
「ご歓談中に失礼いたします、お嬢様」
よく通る声に顔を上げると、背の高い正統派美形の見本みたいな男の人が姿勢を正して立っいてた。
「３年の鷹護(たかもり)と申します」
スッと一礼する姿も様になってる。
もう候補生って肩書きは要らないんじゃない？って思った。
そのくらい鷹護さんの言動は全てが洗練されていた。