結局あの後、私は一睡も出来ずに朝を迎えた。
眠くなってもあのことを思い出すと眠れなくなってしまった。
そろそろ、藤臣さんが起こしに来る時間だけど…
どうしよう?
「淑乃様、おはようございます」
ドアをノックする音と共に藤臣さんの声が聞こえた。
流石は人間電波時計。
時間ピッタリ!
そんなことよりも…
ヘンに意識しちゃうとバレバレだから、藤臣さんをパパだと思おう!
そうすれば、あのこともヘンに意識しないと思うし。
藤臣さんはパパ…藤臣さんはパパ…藤臣さんはパパ…
よし、大丈夫!
「どうぞ」
私が応えるとドアを開けて一礼し、藤臣さんが入って来た。
「淑乃様がご自分でお目覚めになられていらっしゃるとは、本日は雪でも…」
冗談を言い掛けて、藤臣さんは私の顔を見るなり
「昨夜はお眠りになれなかったのでしょうか?」
と心配そうに言った。
…誰のせいですか!
思い出しそうになって、慌てて私は呪文のように心の中で、藤臣さんはパパ…と繰り返した。
「折角の可愛らしいお顔がお疲れになっておりますね。目の下に隈がございます。お体の具合がよろしくないようでしたら、本日はお休みになりますか?」
そっと私の目の下を撫でながら、藤臣さんが私の顔を心配そうに覗き込んでそう言った。
うぅ…顔が近いよぅ!
また意識しそうになって、藤臣さんはパパ…と何度も心の中で繰り返した。
「夕方から寝ちゃって夜中に目が覚めて寝れなくなっただけだから大丈夫だよ、パパ」
藤臣さんの表情が固まった。
しまった、藤臣さんはパパって繰り返していたから、口に出ちゃった…
真っ赤になって俯いた私に
「淑乃様は本当に睡眠不足でいらっしゃいますね。アーリーモーニングティーを濃いめにお淹れいたします」
と言って、朝ご飯の準備を始めてくれた。
やらかした恥ずかしさに、私はベッドに俯せて枕に顔を埋め、ジタバタした。
そんな風に暴れていたから、少し離れた場所で朝ご飯の準備をしてくれていた藤臣さんの
「…気付かれたか」
と言う独り言は、私には聞こえなかった。