恋人は専属執事様Ⅰ

「淑乃様、お目覚めのお時間でございます」
電波時計並みに正確に、毎日藤臣さんは起こしてくれる。
もぞもぞとベッドの上で起き上がり、ガウンを羽織るとテーブルの上に紅茶が置かれた。
「本日のアーリーモーニングティーは、Harrodsのオランガジュリーアッサムのミルクティーでございます」
藤臣さんはいつもこうして紅茶の説明をしてくれるから、私も好きな紅茶の名前くらいは覚えた。
今日の紅茶は初めてだけど、藤臣さんが淹れてくれる紅茶に外れはないから、安心して飲める。
「…美味しい」
寝ぼけた頭と体が目覚めるのが分かる。
そんな私の様子に、藤臣さんは顔を綻ばせて
「淑乃様のお気に召したようで何よりでございます」
と嬉しそう。
藤臣さんが紅茶を片付けて部屋を出たのを確認して、私は着替えた。
今日は日曜日だから、朝ご飯はゆっくりと他で食べたいってお願いしておいたの。
「本日はこちらで如何でしょうか?」
藤臣さんに案内されて着いたのは、こないだとはまた違う温室。
やっぱり広い温室の中は一面のバラ!
「すごい!綺麗~」
興奮する私を、藤臣さんは中へと案内してくれる。
色んな種類のバラの花が満開で、私はあちこちに目移りしてしまう。
「お気に召したものがございましたら、後ほどお部屋へお届けいたしますが、如何いたしますか?」
藤臣さんがそう言ってくれたけど…
「この温室だから綺麗に咲いてると思うからいいです。見たくなったら私がここに来ればいいですし…こんなに綺麗に咲いてるのに、切ったら可哀相です」
私がそう言うと、藤臣さんは目を細めて何とも言えない表情で私を見つめている。
また私、ヘンなことを言ったかな?
私が困惑してるのに気付いた藤臣さんは、直ぐにいつもの笑顔になって
「失礼いたしました。直ぐにブレックファストをご用意させていただきます」
と言って、温室を出て行った。
もしかして、折角藤臣さんがバラの花を部屋に飾ってくれるって言ってくれたのに、切ったら可哀相なんて言ったからかな?
悶々と悩んでいると、直ぐに藤臣さんが戻って来て、テーブルに朝ご飯を並べてくれた。
「藤臣さんがバラを部屋にと言ってくださったのに、切ったら可哀相なんて言ってご免なさい!」
私は藤臣さんに頭を下げた。