藤臣さんがタオルで温めたり冷やしたりしてくれたお陰で、私の瞼は翌朝にはいつも通りだった。
昨日同様、制服に身を包み藤臣さんと車で登校する。

「松本さん、ごきげんよう」
振り返らなくても、この澄んだ綺麗な声が二階堂さんのものだと分かる。
「二階堂さん、おはようございます」
振り向いて私は笑顔で応えた。
「もう、松本さん…あなたのその笑顔は反則ですわ」
私に抱き付きながら、二階堂さんはまた訳の分からないことを言う。
昨日の今日なのに、二階堂さんに抱き付かれることにも慣れてしまった。
「それでは淑乃様、私は執事室におりますので、何かございましたら携帯電話でご連絡ください。直ちに参ります」
藤臣さんはそう言って、通学用のバッグを手渡してくれた。
「ごきげんよう、執事様」
私に抱き付いたまま、二階堂さんがニッコリと藤臣さんに微笑んだ。
「失礼いたします、二階堂様」
藤臣さんもニッコリと二階堂さんに微笑んだ。
あぁ…また2人の間に火花が散っているよぅ!
何でこの2人はこうなるの?
「さぁ、松本さん。お教室に入りましょう」
二階堂さんに手を引かれ、私は目だけで藤臣さんに挨拶すると、教室に入った。

まだ授業が始まるまでには時間があるから、私は松本さんとお喋りをした。
「ねぇ、松本さん。あなたはまだ専属契約のことを考えていないのではなくて?」
いきなり二階堂さんに核心を突かれた。
「うーん…まだ私、藤臣さんにお世話をしてもらうことにも慣れていないから…執事メイドクラスの人にお世話をしてもらうとか想像出来なくて…」
素直な気持ちを話してみた。
「あの執事様がいつも仕えているのですものね…執事候補生でなくとも力不足ですわね」
二階堂さんが納得顔で頷く。
ちょっとニュアンスが違うけど、大体のことは伝わったからいいかな?
「でも、あなたの意思とは関係なく、執事候補生は張り切っているようですわよ?」
ニッコリと二階堂さんが微笑む。
綺麗な笑顔なのに何で黒いの?
てゆうか、何で執事候補生の人が張り切っているの?
二階堂さんに訊こうとしたら、担任の先生が教室に入って来た。
放課後までお預けかな?

今日も授業はなく、教材と時間割や通年の行事予定などプリントが配布されて、担任から軽く説明を受けて終わった。