「お気に召していただけたようで何よりでございます」
カップに新しく淹れた紅茶を注ぎながら、藤臣さんが微笑み掛けてくれた。
「はい、藤臣さん。本当に美味しいです。おやつには勿体無いくらいです」
そう言うと、藤臣さんは顔を綻ばせて
「それではまた今度お出しいたします」
と言ってくれた。
この遣り取りを見ていた二階堂さんが、驚き呆れた表情で
「氷雪の君と呼ばれていらした執事様も、松本さんには随分と甘いのですわね」
と言った。
さっきから気になっていたけど何で『執事様』なの?
それに『氷雪の君』って?
藤臣さんと二階堂さんを交互に見ていたら、二階堂さんが説明してくれた。
「あなたの執事様はね、わたくしたちの学園のOBですの。執事メイドクラス始まって以来の優秀な執事として、未だに記録を破られておりませんの。今でも執事メイドクラスの生徒は勿論、紳士淑女クラスの生徒からも尊敬されておりましてよ。それなのに、在学中は紳士淑女クラスの生徒が専属契約を持ち掛けても、全く見向きもしなかったのですって!それで付いた通り名が氷雪の君ですの。それが高等部に進まれた時に…」
話し続ける二階堂さんの言葉を遮って、藤臣さんが口を開いた。
「ここからはわたくしがご説明させていただきます。わたくしはわたくしが持つ力の全てを、唯お一人の為に捧げたいと思っておりました。全力で唯一の主人にお仕えしたかったのです。若かったので思い込みも強かったのかも知れませんが…」
そう言って、藤臣さんは私を見て曖昧な笑みを浮かべた。
「高等部へ進み、漸くこの方だと思える方に出会えたのでございます。その方は良家のご子息と思えぬ雰囲気をお持ちでした。わたくしども執事メイドクラスへも、同じ1年だからと気軽にいらっしゃいました。氷雪の君などと呼ばれ浮いていたわたくしにも、分け隔てなく接してくださいました。その方が…淑乃様のお父上の聡様でございます」

…パパと藤臣さんが同じ学園で同じ学年で専属契約を交わしていたの?
「藤臣さんって37歳だったんですか?30歳くらいにしか見えないのに…」
私の言葉に、藤臣さんは一瞬驚いた表情をして苦笑いになり、二階堂さんは
「そこですの?ショックを受けるポイントがおかしいですわ!」
とツッコミを入れてくれた。