恋人は専属執事様Ⅰ

二階堂さんと一緒なのに、電話に出たから怒らせちゃった?
「あなたの執事様からですわね?お嬢様に友達が出来たと言うのに、水を差すなんて無粋ですわ!」
どうやら怒りの鉾先は藤臣さんらしい。
そして、二階堂さんの言葉は藤臣さんにも聞こえたみたい。
小さくクスリと笑う声の後、藤臣さんから素敵な提案があった。
「お嬢様、二階堂様のご都合がよろしければ、お茶会にお誘いされてみては如何でしょう?」
お茶会だなんて、なんかお嬢様っぽい!
楽しそう…ううん、楽しいに決まってる。
「はい、そうしてみます!」
私は通話口を手で押さえ、二階堂さんの方を向くとお茶会に誘ってみた。
「そうですわね…今日はわたくしのお稽古もお休みですし。あの執事様の提案と言うのは気に入らないですけれど…わたくしももっと松本さんとお話をしたいですわ。喜んでお招きにあずかりましてよ」
そう言って二階堂さんはケータイを取り出すと、何やら話してから振り向いた。
「運転手にそちらのお屋敷へ車を回すように手配しましたの。松本さんの車に乗せていただいてもよろしいですわよね?」
悪戯っぽい微笑みで二階堂さんが言った。
「ええ、勿論!」
私たちは松本家のお屋敷へ向かった。
車中、ずっと二階堂さんが藤臣さんを睨んでいたのは、多分気のせい…
藤臣さんがその視線に気付いて、ずっと苦笑いを我慢していたのも、多分気のせい…

4月とは言え夕方になるとまだ肌寒いから、私たちは温室でお茶会をすることにした。
温室と言ってもとても広く、私は以前ネットで見たイギリスのクリスタルパレスみたいだと思った。
色んな観葉植物や名前は分からないけど蘭の花などに囲まれ、空調設備も整って温度も湿度も丁度良い。
綺麗な色の小鳥が時々飛んでいたり、近くの木に留まってさえずっている。
…本当にここは日本の一個人の敷地内なのかなぁ?
ぼんやりとそんなことを考えながら眺めてると、二階堂さんに話し掛けられた。
「流石は松本家ですわね。わたくし、色々なお屋敷のお茶会に伺いましたけれど、このような見事な温室は初めてですわ」
二階堂さんがそう言うと言うことは、やっぱりこのお屋敷がすごいんだよね?
ちょっと安心したような、そんな立派なお屋敷のお世話になっていることが申し訳ないような…