教室の中にいた生徒の視線が一斉に私に集まる。
…私、まだ何もしてないよね?
場違いな庶民だから?
視線が痛くて動けない私に、1人の男子が近付いて来た。
「藤臣さんを連れていたってことは、君は松本家の人だよね?僕は伊集院あき…」
プンプンと香水臭い、馴れ馴れしいその男子の自己紹介が終わる前に、彼は突き飛ばされた。
「伊集院さん、彼女が迷惑していらっしゃるとお解りにならないの?」
澄んだ綺麗な声に顔を上げると、目の前にとんでもない美少女が立っている。
真っ黒な髪は真っ直ぐに伸ばされ、髪と同じ真っ黒な瞳は切れ長で日本人形みたいに綺麗。
「わたくしは二階堂紗羅(にかいどうさら)と申します。華道二階堂流家元の娘ですの」
二階堂流って言えば、今一番有名な流派じゃない!
そんなお嬢様と同じクラスだなんて…あまりにも住む世界が違うよー!
って驚いてる場合じゃなかった。
「私は松本淑乃です。えっと…」
松本家は古くからこの一帯の大地主だけど、それはお祖父さんの力で今もそうであって、私はただの居候だから…
自己紹介に困ってると、二階堂さんが
「あなたのお祖父様からわたくしのお祖父様へお話は伺っておりますのよ。ですからそんなに緊張なさらなくてもよろしくてよ?これから3年間、同じクラスなのですから仲良くいたしましょう」
そう言って、右手を差し出して来た。
二階堂さんの言葉がまだ理解出来ずに固まっていたら、私の右手が掴まれて、二階堂さんと握手する形になった。
「この学園でわたくしが松本さんの最初のお友達ですわね」
ニッコリと綺麗な笑顔で二階堂さんに言われ、私は嬉しくなって二階堂さんの細くて柔らかい手を握り返した。
「はい、よろしくお願いします。二階堂さん」
笑顔でそう応えると、二階堂さんが私に抱き付いた。
えぇっ!?
私を抱き締めたまま、二階堂さんは
「あなたって本当に可愛らしくてよ!」
なんて言っている。
お嬢様の感性って分かんない…

でも、二階堂さんのお陰で初日にも関わらず、クラスに馴染むことが出来た。
この学園は幼稚舎から大学まで一貫教育だから、高等部から編入した私は完全にアウェイだから。
始業式が終わり、放課後に二階堂さんが校舎を案内してくれた。
勿論、藤臣さんには真っ先に連絡して。