空は高く広く、
足元は深く狭い。
フェンスを乗り越えて、
あたしは屋上のへりに立っていた。
強い風が、あたしの頬を打つ。
ここは名取グループ本社ビル。
未来の後継者と一応されているあたしは、
ここに自由に出入りできる。
最後にそれを、後悔させてやろう。
一歩前に出る。
爪先が宙に出た。
こわくはない。
このまま理由なく生きていることの方がおそろしい。
疲れたんだ。生きることに。
妹を憎むことにも、
妹に憎まれることにも。
死ねばもう疲れることも
悲しむことも
怯えることも。
そして誰かを愛することもしなくてすむ。
無になれるんだ。


