けれど、
浅倉の両親は姫衣を売らなかった。
これが、
あたしがすべてをあきらめるきっかけになった、出来事だ。
しかもその後、男と駆け落ちした会長の長女が戻ってきた。
小さな娘をひとり連れて。
結局あたしは、名取の未来の後継者ですらなくなったのだ。
「あたしは誰にも必要とされなくなった。
なんの為に自分が生きてるのかなんて、いまもわからない」
「みんなそんなものだろ?」
「そうかもね。でもあたしは気づいたの。理由なんてないってことに」
あたしはおまけか、残りくずだったの。
神さまが姫衣をつくる時に間違ってできてしまった、
人間にすらなれなかったものなんだ。
「でもそのままただ生きて、ただ死んでいくのはしゃくだから。
逆らってやりたかったんだよ」
姫衣の大切なものを奪って、傷つけてやりたいと
そんなことを願い実行した。
自分自身に、深い傷をつけて。


