あたしの声に先生がふり返る。
「シキっ」
男の体を投げ飛ばし、先生があたしに駆け寄ってきた。
先生の目は、怒りと悲しみと痛みが、ごちゃ混ぜになったような色をしていた。
「大丈夫かシキ! くそ……っ」
焦っているのか、
先生はあたしの腕を縛るネクタイをなかなかほどけない。
その間に、男が床をはいずりながら、玄関の方へ逃げていくのが見えた。
血だらけの顔で、苦しそうにうめいていたけれど、
最後にあの陰気な目を先生に向けて逃げていった。
全身から、血の気が一気にひいていく。
なんてことに……っ!
「シキ、シキ! しっかりしろ!」
固まっていたあたしの体に
先生が着ていた上着がかけられた。
その温かさに、涙がまたこぼれた。


