「なんなんですか、先生」
「ああ、すみません。ずいぶん出られるのが遅かったですね」
「……ちょっと電話をしてましてね。で、まだなにか?」
「プリントを渡すと言っていたのに、渡し忘れまして」
「そうですか。それわわざわざどうも」
「娘さんは? いないんですか?」
先生の声は、低くうなるように響いた。
だめだよ先生。
どうして戻ってきたの。
はやく、そのまま帰って……っ!
「娘はいま風呂に入っているので、わたしが渡しておきましょう」
「風呂? ……そのわりには水音が聞こえませんね。失礼しますよ」
「お、おい! 勝手に入るな!」
「名取! いるのか!?」
争う声とともに先生の足音が、近付いてくる。
来ちゃいけない!
戻って……!


