「それでは先生。失礼します」
そう言ってマンションへと歩き出す男。
あたしは逆らわず従った。
これでいい。
これで大丈夫。
恐怖より安堵がまさった。
最後に1度だけ、
マンションに入る直前に先生を振り返ったら。
先生はじっと、
あたしの心を探るようにあたしを見ていた。
先生……愛してるよ。
声にせずあたしが呟いたあと、
先生は背を向けて歩きはじめた。
これでいい。
これで、大丈夫。
「この間の男といい。おまえにはきつい仕置きが必要だな」
覚悟しろ。
そんな宣告にも、あたしの心はもう揺れなかった。
どうせあたしはとっくに汚れきっている。
これ以上、この男に汚される心配はない。
嘆く必要なんて、どこにもないのだ。
それなのに……
涙を止めることはできなかった。


