「そう。その人は、あたしの父親だよ……」
意を決して出した声は、
案外しっかりと響いた。
震えは止まっていて、
先生の背中から手を離すこともできた。
先生はなにか言いたげに口を開いたけれど、
あたしには何も言わず前を向く。
「失礼しました。私は娘さんの数学の授業を担当しております、教師の安藤です」
「教師?」
「駅でシ……織羽さんを見かけまして。夜も遅い時間でしたから、家まで送らせていただきました」
毅然とした先生の態度。
あの男は一瞬顔を険しくさせたあと、
がらりと表情を柔らかくして微笑んだ。
「そうでしたか。それはありがとうございました。いつも娘がお世話になっております。夜出歩かないよう、充分言い聞かせますので」
吐き気がするくらい父親らしいセリフ。
それを薄気味悪い声で言って、
男はあたしの腕をつかんだ。


