「……織羽」
あの声にもう1度、名前を呼ばれる。
「今度はちがう男か。いい身分だな」
あざ笑うその声に、
あたしは先生にすがりつく手に力をこめてしまう。
はやく、離れなきゃ。
はやく、いますぐに。
「シキ。誰だこの男は」
低い声で先生が聞いてきても、
あたしは答えられなかった。
「俺はそいつの父親だ」
「父親?」
「そうだ。おまえこそ、こんな時間にうちの娘を連れ回してなにをしている」
先生は答えずあたしを見た。
「シキ。本当に父親なのか?」
優しく問われ、顔を上げた。
心配そうな先生の顔に、涙が出そうになった。
この人を、巻きこんではいけない。
先生を傷つけていいのは、あたしだけ。
苦しめていいのは、あたしだけだから。
だから先生。
あなたを守るよ。


