正直な先生は、
「そんなことはない」
なんて薄っぺらな否定はしない。
そういうところが、あたしは好きだよ。
教師という仕事に誇りを持っているあなたを、素敵だと思う。
でも同時に、教師という肩書きが憎くもなるの。
「先生。あたしは……」
あなたのいちばんになってみたい。
そんな愚かな本音を言いかけた時。
「織羽」
耳の中をはいずる、あの声がした。
驚いて振り返った視線の先。
マンションの塀の影から、目の据わった男が現れた。
硬直のあとにおとずれる震え。
逃げだしたいのに、動けない。
ただ恐怖するしかなくなったあたしを、
かばうように先生が前に立った。
先生の大きな背中が、
あたしの視界からあの男の姿を消してくれる。
思わずスーツの背中に、ぎゅっとすがりついた。
いけないと、
頼ってはいけないと思いながら。


