いまではあなたがそばにいるだけで、
あたしの氷のように冷えきった心が揺れるの。
それが苦しくて、あなたが憎らしくなるのに
絶対にあなたを嫌いにはなれないなんて。
神さまはどこまでも、
あたしに意地悪をする。
「先生。……あたしのことが、憎くないの?」
明るい通りを過ぎて、
住宅街の暗い道に入ったところで聞いてみた。
「嘘ばかりついて、先生を騙してたあたしが、憎くない?」
「憎いさ、ものすごく」
先生はさらりと、
当たりまえだろうという感じで答える。
「いまだって腹が立ってる」
「……そうだよね」
「でも、どういうわけか嫌えないんだ」
あたしは驚いて先生の横顔を見上げる。
先生は、不機嫌そうに前だけを見ていた。
「それに……シキのすべてが嘘だったとは思えない」


